House in Kannami-cho|函南町の家|2023
神社の鳥居や垣のつくる領域に興味がある。囲うことや潜ることの形式や行為が、何もない空白のなかに手前と奥の感覚を生み、場所への意識を変化させる。ひとつながりの場所なのに空気が変わったような印象を受けるのは、この見えない領域を意識する感覚によるものだろう。この関係性を、街と住宅に置き換えてみる。住宅を街という大きな空間のなかの空白と捉え、街の奥に展開する暮らしについて考える。
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計画地は、工場や月極駐車場、医院、長屋のような店舗の建て込んだ一角にある。敷地一帯が境界線を跨ぐようにアスファルトに覆われていて、どこまでが道でどこからが敷地なのか一見してわからない。抜け道として各敷地を通過していく人や車も多く、当初は駐車場に住宅を計画するような印象を持ったが、何度か敷地を訪れていると、風化したアスファルトの荒さやパッチワークのような継ぎ目が、コンパクトな街の風景に馴染んでいると感じるようになった。街と暮らし、それらを構成するものを単に切り分けて整理するのではなく、敷地を横断するこの街の印象を住宅の領域に引き入れたいと思った。
まず、敷地境界線から各面をセットバックし、敷地よりひとまわり小さい建物の外形を設定した。そのなかに生活の溜まりとなる場所や連続する通路を配し、建物内外を巡るシークエンスをつくりだした。そこに寄りつくように住まいに必要な諸機能や室を接続し、異なるボリュームの寄せ集まった佇まいが生まれていった。外壁はアスファルトの色味や肌理を踏襲したモルタル掻き落とし仕上げとし、周囲に広がるアスファルト舗装の印象と馴染ませている。シークエンスの起点となる場所には光を落とす筒状のトップライトを設け、気積の違いや床の勾配と合わせて場所ごとの陰影を変化させた。通過し視線をつなぐ各窓からは、切り取られた建物の外壁と街の景色が見え隠れし、慣れ親しんだ街とこの場所とを結びつける。日々の暮らしのなかで、見えることと見えないことの体験の蓄積によって、意識の中に固有の風景がつくられていくことを求めた。
意匠 | 山田誠一建築設計事務所 山田誠一 本田圭 |
構造 | 高橋俊也構造建築研究所 高橋俊也 |
施工 | 大栄工業(建築工事) |
| 山脇豊左官 山脇豊(別途左官工事) |
| 飯沼克起家具製作所 飯沼克起(別途家具工事) |
写真 | 新建築社 写真部 福田 駿 |